〒370-0046 群馬県高崎市江木町1639-5
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症例紹介
動物の種類
症例のカテゴリー
犬では、胆嚢粘液嚢腫、胆嚢炎、胆石症など、さまざまな胆嚢疾患がみられます。
なかでも犬で重要なのが**胆嚢粘液嚢腫(Gallbladder Mucocele:GBM)**です。
胆嚢の中に粘稠度の高い胆汁や粘液が蓄積し、病気が進行すると胆汁の流れが悪くなるだけでなく、胆嚢壁の障害や壊死、胆嚢破裂、胆汁性腹膜炎などを引き起こすことがあります。
胆嚢疾患の治療で重要なのは、単に「胆嚢に異常がある」ことを確認するだけではありません。
胆嚢の状態、胆嚢管から総胆管へ続く胆道の状態、胆汁の流れ、周囲臓器との関係を評価したうえで、適切なタイミングと方法で治療することが重要です。
当院では、超音波検査に加えて必要に応じてCT検査による術前評価を行い、手術適応と判断した症例では腹腔鏡下胆嚢摘出術を積極的に行っています。
胆嚢は、肝臓で作られた胆汁を一時的に蓄える臓器です。
胆汁は胆嚢から胆嚢管、総胆管を通って十二指腸へ排出され、脂肪の消化などに関わっています。
そのため胆嚢疾患では、胆嚢そのものだけでなく、胆汁が十二指腸まで正常に流れる経路が保たれているかを確認することが重要になります。
代表的なものに、
・胆嚢粘液嚢腫・胆嚢炎・胆泥症・胆石症・胆嚢壊死、胆嚢破裂・胆道閉塞
などがあります。
特に胆嚢粘液嚢腫は、初期にはほとんど症状を示さず、健康診断の超音波検査などで偶然発見されることもあります。
一方、進行すると食欲不振、嘔吐、元気消失、腹痛、黄疸などがみられ、胆嚢破裂や胆汁性腹膜炎を起こすと急激に全身状態が悪化することがあります。
したがって、症状がない=治療する必要がない、とは限らないところが胆嚢疾患の難しい点です。
血液検査
血液検査ではALT、ALP、GGT、総ビリルビンなどを評価します。
胆嚢・胆道疾患ではこれらの数値が上昇することがありますが、血液検査だけで胆嚢の状態や破裂の危険性を判断することはできません。
炎症が疑われる場合には白血球数やCRPなども確認し、全身状態とあわせて評価します。
超音波検査
胆嚢疾患の診断で非常に重要なのが超音波検査です。
胆嚢内部の胆汁の性状、胆嚢壁の状態、胆嚢周囲の炎症、胆嚢破裂を疑う所見、胆管の拡張などをリアルタイムに評価できます。
胆嚢粘液嚢腫では、胆嚢内に特徴的な不動性の胆汁・粘液が認められます。
一方で、胆嚢粘液嚢腫の超音波パターンだけで破裂リスクを正確に予測できるわけではありません。
そのため、超音波所見だけでなく、症状、血液検査、胆嚢壁や胆道の状態などを総合して治療方針を決定します。
CTによる「手術のための術前評価」
当院では、手術を検討する胆嚢疾患では必要に応じてCT検査による術前評価を行っています。
CT検査の目的は、単に「胆嚢粘液嚢腫があるか」を診断することだけではありません。
超音波検査とCT検査にはそれぞれ異なる長所があり、両者を組み合わせることで、より詳細に胆嚢・胆道とその周囲を評価することができます。
特に手術前には、
胆嚢の位置と形態胆嚢壁の状態胆石の有無胆嚢周囲の状態胆嚢管から総胆管へ続く胆道系総胆管の拡張や閉塞を疑う所見肝臓・十二指腸・膵臓など周囲臓器との関係
などを確認します。
つまりCTは、病気を見つけるだけではなく、「どのように安全に手術するか」を考えるための術前設計として利用しています。
胆嚢粘液嚢腫の犬に対するCT胆道造影では、肝管、胆嚢管、総胆管などの胆道構造を描出でき、総胆管の開存性を術前に評価する方法として有用であることも報告されています。
手術適応となった胆嚢疾患では、基本的に胆嚢摘出術を行います。
胆嚢を肝臓から剥離し、胆嚢管および胆嚢動脈を適切に処理して胆嚢を摘出します。
胆嚢を摘出すると「胆汁を溜めておく袋」はなくなりますが、肝臓では引き続き胆汁が作られます。
その胆汁が総胆管を通って十二指腸へ流れるため、胆嚢を摘出しても生活することができます。
従来の胆嚢摘出術では、腹部を大きく切開する開腹手術が一般的でした。
当院では症例を選択し、**腹腔鏡下胆嚢摘出術(Laparoscopic Cholecystectomy:LC)**を行っています。
腹腔鏡手術では、腹部に数か所の小さなポートを設置し、カメラと細い手術器具を腹腔内へ挿入して手術を行います。
「傷が小さい」だけが腹腔鏡のメリットではありません
腹腔鏡手術というと、「傷が小さい手術」というイメージが強いかもしれません。
しかし、当院が腹腔鏡を使用する理由はそれだけではありません。
腹腔鏡では高解像度カメラによって術野を拡大して観察できます。
胆嚢摘出術では、
胆嚢と肝臓との剥離層胆嚢壁胆嚢動脈胆嚢管総胆管や周囲組織との位置関係
を確認しながら手術を進める必要があります。
拡大された術野で細かな解剖を確認しながら操作できることは、腹腔鏡手術の大きな特徴です。
当院では、**「小さな傷で行うこと」だけではなく、「拡大された視野の中で解剖を確認しながら精密に手術すること」**を腹腔鏡手術の重要な利点と考えています。
胆嚢を肝臓から丁寧に剥離する
胆嚢は肝臓の胆嚢窩と呼ばれる部分に付着しています。
胆嚢摘出術では、胆嚢を肝臓から慎重に剥離していきます。
特に胆嚢粘液嚢腫や胆嚢炎では胆嚢壁が脆弱になっている場合があり、胆嚢を破裂させないように愛護的に操作する必要があります。
腹腔鏡による拡大視野を利用し、胆嚢と肝臓との境界を確認しながら剥離を進めます。
犬34頭に標準化したsubserosal layer dissectionを行った報告では、27頭(79%)で胆嚢床の90%以上をこの層で剥離でき、開腹への移行は3頭(8.8%)、術中出血や胆管損傷は認められませんでした。
胆嚢管・総胆管の評価が重要
胆嚢摘出術で非常に重要なのが、胆嚢を取ることだけに集中しないことです。
胆嚢を摘出しても、総胆管が閉塞して胆汁が十二指腸へ流れなければ問題は解決しません。
そのため術前画像検査で胆管の走行や拡張、閉塞の可能性を評価し、必要に応じて術中にも胆道の状態を確認します。
当院ではこのように、
超音波検査で胆嚢を評価↓必要に応じてCTで胆嚢・胆道と周囲組織を評価↓手術方法を計画↓腹腔鏡の拡大視野で解剖を確認↓胆嚢を丁寧に剥離↓胆嚢管を適切に処理↓胆嚢を摘出
という流れで手術を行います。
腹腔鏡で安全に手術できない場合には開腹手術へ
すべての胆嚢疾患を腹腔鏡で手術できるわけではありません。
胆嚢破裂、重度の胆嚢炎や癒着、胆管閉塞、周囲組織の状態などによっては、開腹手術が適していることがあります。
また、腹腔鏡手術を開始しても、安全な剥離や胆嚢管の処理が困難と判断した場合には、途中で開腹手術へ変更することがあります。
これは腹腔鏡手術の失敗ではありません。
低侵襲であることよりも、安全に胆嚢を摘出し、正常な胆汁の流れを確保することを優先することが重要だからです。
腹腔鏡下胆嚢摘出術の治療成績
犬の良性胆嚢疾患76頭に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った報告では、71頭(93%)で腹腔鏡による手術を完遂し、3頭(4.1%)で開腹手術への変更が必要でした。
また、胆嚢粘液嚢腫だけでなく、胆石症や胆嚢炎などに対する腹腔鏡手術の報告もあります。
一方で、胆嚢摘出術は決して「簡単な手術」ではありません。
胆嚢破裂や胆汁性腹膜炎などで全身状態が悪化してからの手術では周術期リスクが高くなるため、胆嚢疾患をどの段階で手術するかという判断も非常に重要です。
胆嚢粘液嚢腫では、症状が出るまで経過観察すればよいとは限りません。
胆嚢壁の状態、胆嚢内容物、胆汁うっ滞、胆道閉塞の有無、血液検査、臨床症状などから、手術の必要性とタイミングを検討します。
緊急状態になってから手術するのではなく、画像診断によって病態を把握し、全身状態が安定している段階で計画的な手術が可能かを検討することも重要です。
当院が大切にしている胆嚢疾患の治療
胆嚢疾患の治療で大切なのは、「胆嚢を摘出する」という手術そのものだけではないと考えています。
当院では、
超音波検査による胆嚢の評価↓CTによる胆嚢・胆道・周囲臓器の術前評価↓病態と手術リスクを踏まえた治療時期の判断↓適応症例では腹腔鏡による低侵襲手術↓拡大視野を利用した精密な剥離と胆道処理
という一連の流れを重視しています。
腹腔鏡手術の目的は、単に傷を小さくすることではありません。
CTで手術前に解剖を把握し、腹腔鏡の拡大された視野の中で重要な構造を確認しながら、できるだけ身体への負担を抑えて正確な手術を行う。
それが当院の胆嚢疾患に対する外科治療の考え方です。
腹膜炎が生じている
胆嚢破裂を起こした部位。肝臓と胆嚢の間で破裂を起こしている。
摘出した胆嚢を胆嚢内容物。超音波検査でキウイフルーツ様と言われる内容物はゼリー状の物質である。
右側は摘出した胆嚢。
胆嚢粘液嚢腫、胆嚢炎により胆嚢破裂を起こした腹腔内。
胆嚢摘出後の胆嚢管。
摘出された胆嚢
術創。胆嚢は腹部の正中やや左側に位置する。胆嚢管は深部にあるため手術創が大きくなる傾向にある。
腹腔鏡手術を行うと手術創は非常に小さく実施可能である。
急性壊死性胆嚢炎を起こしている。
摘出した胆嚢
胆嚢頚部の縫合部
CT画像。胆石が複数観察される。
繰り返す胆嚢炎と胆石症の治療のために腹腔鏡下胆嚢摘出術を実施。
痛みが少なく、体への負担が少ない。
術後2時間ほどで元気いっぱい。
入院期間は2日間。
摘出された胆嚢と胆石。
腹腔鏡下胆嚢摘出後の手術創。(別症例)
開腹手術と比較し、手術創が小さく、侵襲(体の負担が)少ないと考えられる。
当院では胆嚢外科を多数実施しております。
胆嚢外科が必要な疾患は病態が様々です。また手術難易度も高いです。
胆嚢疾患にお困りの飼い主様、かかりつけ医の先生方。一度ご相談ください。