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がん治療

腫瘍科専門診療

一緒に過ごしている動物達に、命に関わる悪性腫瘍(がん)の疑いがあったり、がんと告知されたりした時に、不安を感じてしまうのは自然なことです。
そんな時に、今後の検査、治療や生活などを誰に相談したらよいのか、どのように調べたらよいのか分からないこともあるかもしれません。
実際に、“具体的に何が心配か分からないけど、漠然とした不安をずっと感じる”といった悩みをもつ飼い主さんも少なくありません。

細胞診検査によって得られた細胞、その後、リンパ腫と診断されました

がんの疑いがある場合に、腫瘍科専門診療では必ず、

  • 診断
  • ステージ判定や持病の把握
  • 治療方針の相談・決定

の3つのステップで進んでいきます。
以下では、腫瘍科専門診療において、実際どのように検査を進め、患者さんと飼い主さんにあった治療方法を決定していくのかをご紹介致します。

がんの診断

腫瘍科専門診療において、その問題となっている腫瘍の正体を見極め、
患者さんに起きている問題を明らかにする(=診断をつける)ことは、
最も重要であり、最初に行うべきステップです。

当院では、まず診断をしっかりつけることを重視しています

診断がついていない状態で腫瘍科診療を行うことは、コンパスも海図も持たずに、航海に出航することに似ています。
診断をつけることでどこに向かっていけばよいか、その目的地(完全に治すことが出来るのか、もしそれが叶わないのであれば、どのような治療があるか、など)がはっきりし、コンパスの指し示す方向、つまり進んでいく道筋が明確となります。腫瘍科専門診療における進んでいく道筋とは、問題となっている腫瘍に対してどんな治療があるのか、その過程でどういった副作用や不具合があるのか、などが想定出来るようになることを指します。
これらのことは、患者さん自身の負担を少なくするだけでなく、飼い主さんにとっても、過度な不安を抱かなくてすむことにつながると我々は考えています。

細胞診による病理検査

細胞診による病理検査写真

腫瘍科診療において、確定診断を得るためには、細胞診や組織生検による病理検査が必要です。

細胞診とは、ワクチン接種等の際に使用する、細い針で腫瘍を刺し、細胞の一部を採取することで診断をつける検査方法です。殆どの場合で、検査に伴う痛みは最小限であり、無麻酔での検査が可能です。
ただし、痛みは患者さんごとで感じ方に違いがあります。また、痛みを感じやすい部位に発生した腫瘍に対する検査であったり、胸やお腹の中の臓器に発生した腫瘍に対し、超音波検査で確認しながら針を刺していくような特殊な検査(超音波ガイド下針穿刺)を行う場合は、本人の負担や安全性を考慮し、鎮静・鎮痛剤を使用したり、ごく短時間の全身麻酔下で検査を行います。細胞診で診断出来ることが多い腫瘍種として、リンパ腫や肥満細胞腫が挙げられます。

組織生検による病理検査

細胞診は患者さん本人の負担が少ない検査である一方で、腫瘍の一部の細胞の評価しか出来ていないといった特徴があります。そこで、細胞診による病理検査で診断がつかない場合には、組織生検が必要になります。

組織生検は、腫瘍を一部切除することで病理検査を行う方法です。組織生検を実施する上では、殆どの場合で鎮静や全身麻酔が必要となります。腹腔鏡などによる硬性内視鏡や消化管内視鏡による低侵襲外科手術も組織生検に含まれます。

また、細胞診と組織診のどちらの検査を行う必要があるのかどうかは、患者さんのプロフィール、症状の経過、その見た目などから予想される腫瘍種や、腫瘍が発生している部位などによっても変わってきます。

より高い精度の診断を行なうために

前立腺癌のCT検査画像。補助診断としてBRAF遺伝子検査が実施されました

細胞診や組織生検による病理検査を実施することで、殆どの場合で確定的な診断が得られます。また、一部のがんでは、がんの進行の早さを組織学的な観点から得ることが出来ます。採取した検体は外部の病理医に診断を依頼しています。
近年では人と同様に、犬と猫の一部の腫瘍でも、病理検査に遺伝子検査を組み合わせることで、より診断の精度をあげることも可能になってきました。
リンパ腫ではリンパ球クローン性解析を実施することがあります。これにより、リンパ系の腫瘍か否か(クローン性があるのかないのか)。またリンパ腫なのであれば、B細胞由来なのかT細胞由来であるのかの診断が可能になります。
犬の膀胱移行上皮癌や前立腺癌では、BRAF遺伝子変異検査を実施することがあります。膀胱移行上皮癌や前立腺癌では、BRAF遺伝子変異が高確率で検出されることが報告されています。
他にも、肥満細胞腫や犬の消化管間質細胞腫瘍(GIST)では、KIT遺伝子変異検査を実施することがありますが、この検査では診断の補助というよりは、特定の薬剤を用いた際の治療効果の予測などに用いられます。

ステージ判定・持病の把握

腫瘍の広がりの把握

舌に発生した癌の浸潤を判定するために実施したCT検査画像

腫瘍の確定診断がついた場合、次にその腫瘍のステージ判定が必要となります。
ステージ判定とは、腫瘍の広がりを把握することを指します。腫瘍の広がりには2種類あります。

まず1つ目として、良性の病変とがんを比較した時に、患部でどの程度広がっているかで違いがあります。良性の病変では発生した場所で、見た目以上には広がっていないことが殆どですが、がんでは見た目以上に腫瘍の周りに広がっている場合があります。これを浸潤と言います。

2つ目は、他の臓器に広がっていないかどうかです。良性の病変では他の臓器に病変を作ることはあまりありませんが、がんでは、がん細胞が周囲の血管やリンパ管に入りこみ、他の臓器に広がることがあります。これを転移と言います。

腫瘍の広がりに応じた治療方針の決定

たとえがんであっても、浸潤性が低く、他の臓器に明らかな転移が認められなければ、腫瘍を完全に治すことを目的にする治療(根治治療)を目指すことが可能になってきます。

しかし、残念ながら、がんが全身的に広がっている場合、負担が大きい治療を行うことで、一定の治療効果はあるものの、その動物達とご家族の時間を辛いものになってしまう可能性があります。

そういった場合は、がんの進行を緩やかにするような治療方法を選択し、痛みや気持ち悪さなどの不具合を出来るだけ減らす緩和治療を優先することがあります。
このように、治療方針を決定する上で、ステージ判定は重要な要素となります。

ステージの判定

乳腺癌と診断された猫に認められた胸部X線検査画像。肺転移が認められました。術前にステージを把握するのに必要な画像検査です

ステージ判定には、X線検査、超音波検査や全身麻酔下でのCT検査などの画像検査と、細胞診による病理検査を組み合わせて行います。がんの種類によって、どの臓器に転移が起こりやすいか、分かっている場合もあります。
腫瘍の診断・ステージ判定ができると、その腫瘍の治療方針や今後その腫瘍によってどのような問題が起きてくるかなどが明確になってきます。治療方針を選ぶ上で検討が必要な点として、患者さんの持病が挙げられます。
がんを患っている動物達は高齢のことが多く、複数の持病を抱えていることが殆どです。がんの治療において、高い治療効果を得るためには、負担が一時的に強くかかってしまうことは少なくありません。
前述した通り、診断・ステージ判定の過程で鎮静や全身麻酔下といったやや負担のかかる検査が必要になることもあります。また、がん種によっては、腫瘍随伴症候群と呼ばれる、がんが局所もしくは転移病変で直接及ぼす問題とは別に、がんが産出する物質などの影響で全身の臓器に悪影響を及ぼす病態があります。

持病の把握

上記のことから、鎮静や全身麻酔下での検査をより安全に行ったり、よりその患者さんにあった治療を選んだりする上で、持病の把握は必要となってきます。

持病の把握の為に必要な検査としては、診断やステージ判定の際に用いた画像検査や病理検査の他に、血液検査、尿検査、血圧測定や心電図検査などが挙げられます。

がんの診断

これまでに行った、診断・ステージ判定や持病の把握の結果をもとに、
飼い主さんへ治療方針の提示を行います。
腫瘍科診療における治療方針は、大きく分けて
根治治療(≒積極的治療)と緩和治療の2つがあります。

1.根治治療

1年以上ご家族と一緒にいれることを第一目標とし、最大の目標として、“完全に治す(いわゆる“治癒”)ことを目指す治療方法。現在では根治治療を選ぶ場合でも、後述する緩和治療も同時に行い、患者さんの状態をサポートしながら、進めていくことが殆どです。

2.緩和治療

腫瘍と共存しながら、生活の質の低下を可能な限り起こさないようにする治療方法。緩和治療の中でも、腫瘍科診療で特に重要になるのは、痛みのケアと栄養面のサポートです。その他の症状を緩和させるための治療は、患者さんの容態に応じて適宜追加していきます。

がんの治療を行っていく上で、どちらの選択が正しいということはありません。
がんの治療で最も重要なことは、いかなる治療であっても、“継続出来る治療を選ぶこと”です。「患者さんの状況が、根治治療を行える状況にあるのかどうか」、「もし根治治療が行える状況下であっても、万が一何かトラブルが生じた際に、それをケアすることが出来るのかどうか」、「通院回数」、「費用」など様々なことを、治療を選ぶ上で考えなければなりません。

飼い主さん、患者さんである動物達と獣医師が三位一体となり、一緒に考え、方針を決めていくことがんと上手く向き合っていくための鍵となります。

がんの治療法

がんの治療法には、3つの柱となる治療があります

  • 外科治療
  • 化学療法
  • 放射線治療

外科治療

外科治療は、血液のがん(例:白血病やリンパ腫)を除いて、がん治療の中心となる治療法です。外科治療はメスなどを用いて、腫瘍を身体から切り離し、腫瘍を取り除く治療方法です。腫瘍治療における外科治療は、腫瘍を完全に取り除くことを目的とした根治的外科治療、腫瘍による不具合を軽減することを目的とした緩和的治療、腫瘍の発生を防ぐために行われる予防的治療と診断的治療の4つに分けられます。
他の治療方法とは異なり、外科治療は速やかに腫瘍を取り除くことが可能であり、腫瘍が限局している場合には、最も直接的かつ完治を目指すことが出来る治療方法です。一方で、外科治療のデメリットとしては、全身麻酔が殆どの場合必要であること、手術による傷や体力の回復に時間を要することや腫瘍の発生部位によっては外貌の変化や臓器や体の機能が一部失われてしまう場合があります。

このようなデメリットをより軽減するために、最近は早期に見つかった腫瘍に対して、内視鏡を用いて切除したり、鏡視下手術という、小さく細長いカメラを手術部位に挿入し、モニターに映し出された映像を見ながら手術を行う方法を行ったりするようになっています。
当院では、一般的な外科治療に加え、鏡視下手術にも対応しています。
詳しくは、鏡視下手術のページ をご確認下さい。

腹腔鏡の詳細へ

化学療法(抗がん剤治療、がん薬物療法など)

化学療法は外科療法、放射線療法と並んでがん治療の重要な治療方法の1つです。外科治療や放射線療法が得意とするのは、がんが出来た部位に対する局所的な治療法であるのに対し、化学療法では、直接的に局所にも働きますが、局所以外にも、抗がん剤が血液の中に入り、全身を巡ることで、転移してしまったがん細胞に対し、効果を発揮する全身治療が可能な治療方法です。また、前述したように、がん細胞は周りの組織に広がったり(浸潤)、リンパ管や細い血管に入ってリンパ節や他の臓器に広がったり(転移)することがあります。外科手術では取り除くことが出来なかった周囲に広がってしまったがん細胞や、他の臓器に広がってしまった可能性のあるがん細胞を攻撃するためにも、化学療法は有用な治療方法です。他にも、化学療法は、がんが進行してしまって外科治療や放射線治療が難しい患者さんのがんの進行を抑え、ご家族と一緒にいる時間をより長くする目的でも使用されることがあります。

人で行われる化学療法(抗がん剤治療)のイメージから、化学療法(抗がん剤治療)は、「辛く、苦しいもの」とイメージされている飼い主さんは少なくありません。勿論、副作用が全くない治療方法ではありません。ただし、人医療で認められる酷い吐き気や脱毛といった症状は、動物ではあまりみられません。人医療の場合には、腫瘍の完治を目標として、強い副作用が起きたとしても、その後の余命を伸ばすために、割り切って治療することがあります。一方、動物医療における化学療法は、完治に導くことも大事ですが、普段の生活の質を落とさず、飼い主さんと1日でも長く生活できることを、より重要視しています。その為、一般的な抗がん剤の副作用のイメージよりは、ずっと軽度のことが殆です。加えて、人医療と同様に、動物医療でも化学療法に伴う副作用を軽くするための方法も発達してきています。化学療法に対するご不安やご不明点があれば、気軽にご相談頂ければと思います。

放射線治療

放射線治療は、前述した外科治療と化学療法と並ぶがんの3大治療の1つです。放射線治療とは、人工的に作りだしたある種の放射線を用いて、がん細胞にそれを当てることでがん細胞を死滅させる治療方法です。放射線治療は動物医療においても、近年非常に発達してきている治療方法であり、実施できる施設が増えてきています。
放射線治療も外科治療と同様に、患部のがんを集中的に治療する方法に優れた治療であり、外科治療と違い、体の一部を切らずに治療することが出来るので、体の機能を維持した状態で、患部の治療が出来ることが最大のメリットです。また、鼻の中や脳内など、外科治療で大きく切除することが困難な部位に出来た腫瘍に対して、アプローチ出来ることも放射線治療のメリットと言えます。ただし、腫瘍の種類によって、放射線治療の効き方には違いがあり、殆ど効果がなかったり、効いたとしてもすぐ再発してしまったりすることがあり、手術が可能であれば、外科治療が優先されます。

動物医療における放射線治療の最大のデメリットは、全身麻酔を必ず実施しなければならないことです。放射線治療は、腫瘍細胞にも効果的ですが、正常な細胞に当たってしまうと正常な細胞・組織を傷つけてしまうことがあります。その為、放射線を当てる際は、どうしても全身麻酔を用いる必要があります。

放射線治療を行うためには専門の機械、施設と獣医師が必要であり、当院で実施することは出来ませんが、放射線治療をご希望された際は、専門の施設の紹介を行っています。

最後に

近年では、獣医学の発展と共に、がん治療に対する選択肢が広がり、たとえ完全に治すことは難しくても、腫瘍の進行を緩やかにするような治療も選ぶことが出来るようになってきました。たとえ同じがん種であっても、治療方法は一様ではなく、それぞれの患者さん、それぞれの飼い主さんによって変わってきます。治療を行っていく上で、色々な場面で大切な選択や決断をしなければならないことも増えるかもしれません。そんな時に、解決の糸口を一緒に探し、共に歩んでいくような腫瘍科専門診療を行っていきたいと我々は考えています。